2018年03月30日

『「いつものパン」があなたを殺す』デイビッド・パールマター, クリスティン・ロバーグ

小麦は血糖値を上昇させやすいだけでなく、脳に悪影響を与えるグルテンを含むという。著者は、狩猟採集民の食事の75%を脂肪が占めていたことを根拠にして、低炭水化物の食事を勧めている。

グルコース(ブドウ糖)を摂ると、全身を循環して血糖値を上げ、体内のすべての細胞で利用される。フルクトース(果糖)は肝臓で代謝されるため、血糖値やインスリン値は上がらない。ただし、フルクトースが多い食事を摂れば肥満になる。小麦はグラニュー糖(スクロース)より血糖値を上昇させる。

インスリンの役割は、血中のグルコースを筋肉や脂肪、肝臓組織の細胞に送ることだが、継続的にグルコースを摂取して高濃度のインスリンにさらされると、細胞は膜表面の受容体の数を減らして順応する。すると、膵臓はインスリンを多く分泌して濃度はさらに上がる。これを繰り返すと、細胞はインスリン抵抗性になる。血中の糖はガラスの破片のようにダメージを与え、失明、感染症、神経損傷、心臓疾患、アルツハイマー病等多くの問題を引き起こす。インスリン感受性は、食事療法と運動によって改善する。

高血糖は、グルコース、タンパク質、脂肪を結合させ、終末糖化産物(AGEs)を形成して硬くする糖化反応(メイラード反応)を起こす。糖化反応は正常な代謝プロセスだが、過度になると脳組織の委縮、認知低下、腎臓疾患、糖尿病、血管疾患をまねく。AGEsは、肌のしわやたるみ、変色などの老化をもたらす。LDLが糖化されるとフリーラジカルの量は50倍に増え、それによって細胞は機能を失って死んでいく。

血糖値が上昇すると、神経伝達物質であるセロトニン、エピネフリン、γアミノ酪酸(GABA)、ドーパミンが減少する。さらに、神経伝達物質を生成するのに必要なビタミンB複合体が使い尽くされる。血糖が正常範囲内でも高めであると、脳は6〜10%ほど委縮する原因になる(American Academy of Neurology, 2012/9)。ウエストが太い人ほど脳の海馬は小さいことが判明している。

タンパク質の混合物であるグルテンは、粘着性のある物質として、クラッカー、焼き菓子、ピザ生地などのパン製品をつくるときに粉をまとめ、ふくらませる役割を担う。グルテンは、胃で分解されるとポリペプチド混合物となり、血液脳関門を通過して脳に入るとオピオイド受容体と結合して、アヘンと同じ仕組みの恍惚状態をもたらす。小麦や大麦などの穀物に含まれるグルテンの量は、数十年前に比べて40倍になっている。トウモロコシ、米、ソバはグルテンを含まない。

食事による脂肪摂取は、肥満とほとんど関係がない。脂溶性のビタミンA,D,E,Kは、食事による脂肪は欠かせない。ビタミンDが不足すると、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病などにかかりやすくなる。

健康的な脂肪を豊富に摂っている人は、認知機能障害になる割合が42%低い(R. O. Roberts, et al.2012)。脳は3分の2が脂肪で、そのうちの4分の1がDHA。DHAは、抗炎症作用を持ち、脳の代謝低下を防いで脳の機能を高める。DHAをたくさん消費した人は、アルツハイマー病にかかるリスクが60%低下した(E. J. Schaefer, et al.,2006)。

飽和脂肪酸は細胞膜の50%を占めるほか、骨がカルシウムを吸収すること、肝臓が脂肪を取り除くこと、白血球が病原菌を識別して破壊したり、腫瘍と戦うことなどに役立っている。21の研究をまとめた34万人のデータによると、飽和脂肪酸の摂取と、冠状動脈性心疾患、脳卒中、心血管疾患のリスクとは関係がない(P. W. Siri-Tarino, et al.,2010)。心臓発作のリスク要因として重要なのは、喫煙、アルコール過剰摂取、有酸素運動の不足、体重過多、高炭水化物の食事などがある。

コレステロールは脳の重要な栄養素で、ニューロンが働くためには欠かせず、細胞膜の構成要素として基本的な役割を果たす。また、抗酸化物質、ビタミンDなどの前駆体、ステロイドホルモンとしての役割も担う。LDLは低比重のリポタンパク質で、悪いところは何もなく、コレステロールをニューロンに運ぶ役割を果たす。総コレステロールは、言語能力、注意・集中力、抽象的推論、多くの認知領域を測定するデータとの間に強い相関がある(Penelope K. Elias, et al.,2005)。うつ病は、コレステロール値が低い人にはるかに多い(J. Y. Shin, et al.,2008)。

ケトン食療法によって脳内のアミロイドが減少する(I. Van der Auwera, et al.,2005)。ケトン体脂肪の中鎖脂肪酸油は、アルツハイマー病の認知機能に著しい改善をもたらす(M. A. Reger, et al.,2004)。中鎖脂肪酸はココナッツオイルに含まれる。

西洋人が、小麦が与える健康への影響を指摘しているのは興味深い。どの本を読んでも、脂肪やコレステロールは避けた方がいいどころか、身体にとって重要であると書かれているが、この本では、脂肪の摂取は肥満とは関係がないと言い切っている。さらに、飽和脂肪酸は心疾患との関係はなく、悪玉と呼ばれているLDLも重要な働きを担っていると指摘している。食事については、本によって書いてあることが異なるが、この本でも新たな見解を得ることができた。

「いつものパン」があなたを殺す: 脳を一生、老化させない食事「いつものパン」があなたを殺す: 脳を一生、老化させない食事
デイビッド パールマター, クリスティン ロバーグ / 三笠書房 (2015-01-16)
タグ:食事
2018年03月23日

『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』矢部宏治 講談社現代新書

内容は米軍基地や米軍人に対する裁判権を含む日米間の軍事関係。文体は軽く、前半はすらすら読める。後半は核心に迫るほど重くなっていくが、解き明かしていくカラクリは筋が通っている。

日本国憲法は、国連憲章との強い関連の中から生まれた。まだ太平洋戦争が始まっていない1941年8月、ルーズベルトとチャーチルは、アメリカが対日戦争に参戦することを前提として、英米が理想とする戦後世界の形を宣言した二ヵ国協定の大西洋憲章を結んだ。大西洋憲章の第8項には、武力使用の放棄、侵略的脅威を与える国に対する武装解除が書かれていた。1942年1月には、ソ連と中国を含めた26か国の連合国共同宣言を成立させ、第二次世界大戦を戦う体制を整えた。連合国の勝利が確実になった1944年10月には、米・英・ソ・中の4か国でダンバート・オークス提案をつくり、世界の安全保障は国連軍を中心に行い、米英ソ中の4大国以外の国は交戦権は持たないという原則が定められた。これをもとに、1945年4〜6月のサンフランシスコの会議で国連憲章がつくられた。1946年2月のロンドンで国連軍創設のための五大国の会議が始まった日に、マッカーサーが示した日本国憲法草案執筆のための3原則の中には、「日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理念に委ねる」と書かれていた。日本国憲法の草案は誰がどのように書いたかまでわかっており、日本人が条文を書いた話は一切出てこない。

朝鮮戦争勃発時に日本を訪問中だった国務省顧問のジョン・フォスター・ダレスは、日本に全面的な戦争協力を約束させることを引き換えに、日本の独立に賛成することを軍部に説得し、日本のどこにでも必要な期間、軍隊をおくことを条件とした平和条約をつくることになった。ポツダム宣言には占領軍はただちに徹底すると書かれていたが、国連憲章第48条で定められた国連軍が編成されなかったため、暫定的に五大国が代わりに行うと書かれた同第106条を使って、国連の代表国であるアメリカとの間に安保条約を結ぶことによって米軍基地を置くことにした。

基地権や裁判権の密約のほかに、自衛隊は米軍の指揮の下で戦うという指揮権密約がある(古関彰一が1981年に朝日ジャーナルで発表)。1950年6月に始まった朝鮮戦争で、日本は様々な協力を求められていたことから、1951年1月に始まった独立交渉の中で、日本が米軍への軍事支援を継続する吉田・アチソン交換公文という条約を結んだ。占領終結直後に、日本の軍隊が米軍の指揮下に入って戦うことを米軍司令官から要請され、吉田茂首相が了承して密約が成立した。

占領下の在日米軍の法的地位を変えることなく、日本の独立後も軍事面では占領体制を継続するための政治的装置として、日米合同委員会が1952年に発足した。現在も月に2回ほど密室で行われ、国会に報告する義務はなく、議事録も公開されない。本会議と30以上の分科会で構成され、日本側の代表は外務省北米局長で、他のメンバーは各省のエリート官僚だが、アメリカ側の代表は在日米軍司令部副司令官で、他のメンバーは1人を除いてすべて軍人。最終決定権は米軍側(太平洋軍司令官)が握っている。日本側のメンバーは最高ポストの官僚たちで構成されているため、官僚は裏切ることはできない。さらに、法務省の大臣官房長は、その後、検事総長に就任することが多いため、影響力は司法にも及ぶことになる。鳩山由紀夫首相は、普天間基地の移設問題について協力を求めるために、外務省と防衛相から幹部を2人ずつ呼んで秘密の会合をもったが、翌日の朝日新聞でリークされた。首相すら官僚に裏切られる権力構造になっている。アメリカ側の軍人でない唯一のメンバーである在日米大使館の公使も、過去に何度も日米合同委員会を批判している。

米軍の特権についての条文が変更されると、その裏には日米合同委員会などで結ばれた密約が存在し、米軍の権利が損なわれることはなかった。占領終結時に発効した行政協定は、1960年の安保改定で地位協定に変更されたが、その裏側では「基地の問題についての実質的な変更はしない」という密約が結ばれていた。この米軍に対する治外法権を与えるために、最高裁、検察、外務省はそれぞれ裏マニュアルをつくっている。

アメリカとの間で米軍を国内およびその周辺の配備する権利を与える条約を結んでいるのは、日本のほかに韓国と台湾だけ。1979年に米中の国交が樹立した際に、台湾との国交は断絶して条約は失効した。日本と韓国がアメリカの軍事的支配下にあることが、アジアに冷戦構造が残っている最大の原因。著者は、突出した軍事力を維持し続け、国連憲章を無視した他国への軍事介入を繰り返しているのはアメリカだけであり、かつての敵であるロシアや中国の方がよほど自制的に振る舞っていると評する。

アメリカの海兵隊がアフガニスタンで使用した12種類の航空機の中で、オスプレイは全体の平均の41倍の事故率を記録している。普天間基地に配備されたオスプレイは、日本全国の6つのルートで低空飛行訓練を行っている。沖縄の北部訓練場の返還の見返りに高江周辺に移設されることになるヘリパッドは、高江の住民や家屋を標的に見立てた軍事訓練を行うためにつくられた。ベトナム戦争時代には、高江の住民がベトナム人の格好をさせられて軍事演習を行うベトナム村がつくられていた。

アメリカが集団的自衛権に基づく安全保障条約を結んでいるのは米州機構とNATOだけで、それ以外は個別的自衛権に基づいて協力しあう関係でしかない。日本が集団的自衛権を行使できるようになっても、アメリカと互いに血を流して守りあう関係になることはない。現在の日米関係では、憲法解釈を変えて海外へ派兵できるようになれば、米軍の司令官の下で従属的に使われるようになるだけ。

著者は、現在の日米関係は朝鮮戦争の混乱の中でできた不平等条約と結論付ける。基地権、裁判権は明らかに不平等だし、密約は法を逸脱している。官僚と軍人が行う日米合同委員会はいびつで権力構造を歪めている。基地周辺の住民は、この構造の犠牲にされているのだ。他国への軍事介入を繰り返すアメリカに追随し続けるのも、国際社会の一員として好ましくない。著者は、きちんとした政権をつくって、日本国内の既得権益層(安保村の面々)を退場させ、アメリカに対して改正することを交渉すればいいと主張する。

アメリカは、国際法の名のもとに、自分たちに都合のいい取り決めや政策を相手国にどこまで強要できるかを議論しながら政策を決めていると、著者は評する。確かに、大西洋憲章から日本国憲法へと至る流れは見事だし、在日米軍を置くために国連憲章を用いる論理も狡猾ながらあっぱれだ。ただ、根にあるのは、自立するよりも、大国にすがって生きていこうとする日本人の性格と、その歴史で固められた国内体制にあるように思う。アメリカはそれをいいように利用しているのが実態なのだろう。それでも、高校生の教科書として使って欲しいと思うほどの、わかりやすく整理された内容だった。

知ってはいけない 隠された日本支配の構造知ってはいけない 隠された日本支配の構造
矢部 宏治 / 講談社 (2017-08-17)
2018年03月07日

『AIが人間を殺す日』小林雅一 集英社新書

この著者は視点がいいと思う。技術の発展を手放しで称賛するわけでも、無暗に恐れるわけでもなく、機械と人間の関係や社会への影響について真摯に向き合っている。

テスラ社は、2015年にオートパイロット機能を搭載した半自動運転車モデルSをリリースしたが、2016年に死傷事故を起こした。モデルSには高性能で高価なセンサーのLIDARが搭載されていなかった。グーグルは、2016年に分社化したウェイモに自動運転事業を移管し、人間を制御の環から外した完全自動運転の開発を進めている。各社では、ごくまれに発生する非常事態にも対応できるようにするため、指令センターの人間が制御権を引き継いで遠隔操作する方式も検討されている(Human in the Loop)。

IBMが開発したワトソンは、2011年にテレビのクイズ番組で歴代チャンピョンをを下した後、本格的なビジネス用のコンピューターに改造することを決定し、これまでに25業種で導入されている。中でも、ワトソン事業部の人員の3分の2が医療ビジネスに振り向けられており、新薬の開発やがんの診断支援、ゲノム解析アドバイザーなどに応用しようとしている。東大医科学研究所でも、2015年に導入している。ワトソンは、ルール・ベースの自然言語処理に機械学習やニューラルネットワーク、ビッグデータの探索技術を組み合わせた折衷型。

グーグル傘下のディープマインド社は、2016年にアルファ碁でイ・セドル棋士を負かしたが、ディープラーニングを医療に応用する取り組みを進めている。グーグル翻訳は2016年、対訳文書を比較するディープラーニングに基づいたモデルにリニューアルした。画像・音声認識の分野では、最高水準のディープラーニングのエラー率は3%前後に達しており、5%前後である人間のエラー率を追い越している。

オバマ政権が2012年に策定した国防総省指令では、兵士が標的を定めて攻撃する半自律的兵器と、兵器自体が標的を定めて攻撃する完全な自立兵器を区分し、米軍は前者を保持・使用すると定めている。戦場で戦う兵士や指揮官が欲しがっているロボットは、自ら戦況を判断して見方を助け、敵を攻撃する自律的兵器だが、自律性を高めようとすれば、人間の予想を超える行動に出る危険性も高まる。

従来の自動車や高速鉄道、ジェット機など、これまでの技術でも、私たちが中身の仕組みや技術を理解しないまま機械に命を預けるケースは多いが、これらを開発した科学者や技術者はその原理や仕組みを正確に把握しており、人間の制御下にあった。しかし、人工知能では、当の技術者さえ内部メカニズムや思考回路を把握しきれなくなっており、人間が制御できなくなっている(Human out of the Loop)。ディープラーニングで入出力層の間に追加する隠れ層は急増しており、100層を超えるものも珍しくない。入力するパラメータの数も億単位になっている。ディープラーニングの結論に至った理由を説明できるようにすることが課題になっている。

しかし、ディープラーニングの結論に至る理由を人間が理解できる形で説明することなどできるのだろうか?ディープラーニングの方法と似ている主成分分析でも、第1成分や第2成分といった説明が行われる。第1成分は入力したパラメータのうちのどれとどれが、それぞれどのような割合で構成されているなどと説明される。隠れ層の数が多くなるほど、そのような説明が長々と続くことになるだろうし、層の段階が進むほど人間には理解できなくなるのではないか。

著者は、ディープラーニングの技術が人間社会に受け入れられる過程について、古来の薬草が効くことがわかっていても理由は不明だったことに例えて、高い確度で妥当性が示されれば受け入れざるを得なくなるだろうと予想している。自らの思考や判断よりも人工知能の結論の方が好ましいことを経験的に学べば、人々は人工知能に従うようになっていくだろう。そうして思考力や判断力を養うことを怠れば、ますます人工知能への依存が強くなる恐れも抱く。

本書の最後で著者が書いていることは、私が人工知能に対して抱く懸念と同じだ。

「いつの日か私たちが本来の心を失い、人工知能にすべての判断をゆだねるとき、人は人であることを止め、人の姿をしたロボットになる。人工知能がもたらす真の脅威とは、それが人間を殺すことではなく、人間性を殺すことなのかもしれない。」

AIが人間を殺す日 車、医療、兵器に組み込まれる人工知能AIが人間を殺す日 車、医療、兵器に組み込まれる人工知能
小林 雅一 / 集英社 (2017-07-14)
タグ:人工知能