2016年02月09日

「大学生に語る 資本主義の200年」的場昭弘 祥伝社新書

著者はマルクスに関する著書を多数書いている方。3章の「民主主義と個人主義」が読み応えあった。所有権を認めることによって成り立つ資本主義が、キリスト教の思想や秩序を背景としていることが分かりやすかった。

キリスト教は、聖書をどのように解釈するか、神の真意をどうはかるかを求める経典宗教。文字を読み、史料を批判する行為から西洋合理主義が生まれた。ユダヤ教やイスラム教は、日常生活が信仰の場であったため、学問は生まれなかった。

ヨーロッパの封建社会では、キリスト教徒は死ぬ直前に財産を教会に寄付して処分していた。ルターの宗教改革によって生まれたプロテスタントは、貯め込んだお金を相続できるようになり、相続されたお金の一部が資本となって資本主義を生み出した(ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」)。

17世紀のピューリタン革命において、農民が土地を分割所有することによって個人が確立した。他のヨーロッパでは、土地は共有物で、土地の優劣が偏らないように輪番制で利用していた。土地が固定されたことによって貧富が生まれ、囲い込みによって無産労働者が生まれた。

フランス革命の後半に登場したロベスピエールが行った恐怖政治は、行き過ぎた経済の自由を規制することが目的だった。王党派を追放すると、キリスト教の改革も進め、政教分離を完成させた。サン・シモンやフーリエは、所有の自由と平等が両立しない問題に対して、社会主義の思想を導いた。プルードンは、所有権を認めたことでフランス革命は失敗したと断じた。

アジアでは、共同体による直接民主主義の例が多かった。共同体的理念を高度にシステム化したものが、共産主義(コミュニズム:共同体主義)。キリスト教は、個人が分離して神と対立することによって権力と秩序が維持されているため、共同体を認めない。

レーニンは、資本主義化を一気に進めるための道具としてマルクス主義を利用した。ソ連は、イギリスの囲い込みと同様に、農民たちを搾取して生まれた利益を工業化に移転することを国家が行った。

小泉政権が登場すると、アメリカは集団的自衛権を強く要求するようになった。アーミテージ国務副長官は、北朝鮮から発射されたミサイルを日本が撃ち落とすことを求めた。田中真紀子外務大臣との喧嘩話に見せて、鈴木宗男や外務省の新ロシア派は排除された。

大学生に語る 資本主義の200年大学生に語る 資本主義の200年
的場昭弘 / 祥伝社 (2015-02-02)
タグ:経済
2015年12月02日

「ポスト資本主義」広井良典 岩波新書

著者は、福祉などの公共政策が専門のようだが、学生時代には科学哲学を専攻していたらしい。そのためか、資本主義の歴史を科学史とのアナロジーで論じるなど、難しい部分もある。しかし、人類史を含む様々な分野の書物を紹介して俯瞰的な議論を展開しているので、学ぶところは多かった。

人類史は、拡大・成長の時代と定常化の時代のサイクルを繰り返してきた。農耕が始まって以降の拡大・成長期が続いた後、紀元前5世紀頃に世界各地で普遍的な思想や宗教が同時多発的に生まれたのは、農耕文明が資源・環境制約に直面したことが背景にあり、量的拡大から精神的・文化的発展へ移ったのではないかとの仮説を提示している。現在は、化石燃料を用いた工業化による拡大・成長の時代から定常化に移る分水嶺の時期にあると位置付けられ、資本主義からポスト資本主義の展開と重なる(p1-10)。

透明性や公正性がある市場経済とは異なり、資本主義は不透明、投機、巨大な利潤、独占、権力などが支配し、拡大・成長を志向するシステムと理解できる(p25-28)、ウォーラーステイン「脱=社会科学」)。近代資本主義は、ヨーロッパにおける地理的発展による空間的拡大のほかに、個人が共同体の拘束を離れて独立することができたことや、技術によって自然を開発することができるという思想によって、拡大・成長していった(p36)。

資本主義は、1929年の世界大恐慌を経験した後、経済成長は需要によってもたらされるとして、政府による公共事業や社会保障などの所得再分配を進めることを主張したケインズの修正資本主義によって、大きな成長を遂げた(p47)。GNP統計も、世界大恐慌を受けて、経済成長の指標として開発されたもの(p50)。

これまでに重視されてきた労働生産性は、人手が足りず、自然資源が十分にあることが背景にあった。現在は、人手が余り、自然資源が足りない状況になっているため、環境効率性(資源生産性)の方向に転換することが課題。ドイツでは、「労働への課税から資源消費・環境負荷への課税へ」の理念の下に、1999年にエコロジー税制改革において環境税を導入した。その税収は年金に当てて社会保険料を引き下げたことにより、企業の負担を抑えて失業率を下げて国際競争力を維持した(p145、広井「定常型社会」)。ロバートソンは、共有資源への課税の考え方から、土地やエネルギー等への課税を論じている(p175、「21世紀の経済システム展望」)。

中世に教会やギルド、都市国家など多様な主体が活動していたように、これからは国家が中心の世界から、NGO,NPOや企業など様々な主体が活躍する時代に移るようになる(p63、田中明彦「新しい中世」)。著者は、生産性の概念を転換すること、人生前半の社会保障やストックの再分配、コミュニティ経済の3つの方向をあげて、緑の福祉国家を提唱している(p206)。

ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来
広井 良典 / 岩波書店 (2015-06-20)
タグ:経済
2015年11月17日

「国家の存亡」関岡英之 PHP新書

著者は銀行員を勤めた後、独立した方。4年前の民主党政権時代に書かれた本だが、タイトルがわかりにくかったのでTPPがテーマとは気がつかなかった。TPPはもう妥結してしまったが、国民の代表である国会の批准はこれからだから、まだ読む価値はあるだろうと思った。

1989年の宇野・ブッシュ会談で合意されて、日米構造協議が2年間行われた。1993年の宮澤・クリントン会談で日米経済包括協議を合意したのを受けて、年次改革要望書が翌94年から開始された。95年からは保険分野の市場開放を目的とした郵政民営化があげられている。民間保険市場は95年に法律が改正されて開放され、2000年前後には9社の中小生命保険会社が経営危機に陥って外資系に買収された。2001年の小泉・ブッシュ会談で「成長のための日米経済パートナーシップ」に変わり、年次改革要望書は2008年の麻生政権まで続いた。

日米経済包括協議の一環として「投資・企業間関係作業部会」(後に日米投資イニシアティブ)が設置され、1998年にアメリカから提示された提言には、M&A、労働、土地の3分野18項目があげられていた。M&Aの分野では、連結納税、株式持ち合いの解消(時価評価制度)、企業統治(社外取締役制度など)、M&A(三角合併)、会計制度(減損会計)、会社倒産手続き(会社更生法の改正、産業再生機構を設立)、労働分野では、労働市場の流動性を高めることを目的とした確定拠出型年金制度、労働者派遣事業の自由化、土地の分野では、賃貸契約の規制緩和(提起借家制度)、不動産証券化(日本版REIT)が小泉政権までに実現した。

民主党政権に代わって、蓮舫大臣が主管する行政刷新会議の下に規制・制度改革分科会が2010年3月に設置されたが、これは後にTPP参加交渉とリンクされた。さらに、2011年2月に日米経済調和対話が開始されて、三位一体として推進されるようになった。

2011年の日米経済調和対話でアメリカ側から示された関心事項からは、攻略目標が農協と医療に移ったことがわかる。農業の小項目には、残留農薬問題、有機農作物、食品添加物、ゼラチンが、医療では医薬品・医療機器があげられている。農協については、金融部門を分離することが掲げられており、郵便公社の4分社化と同じ目的。医療の事後チェックとは、患者が自己責任で治療を選び、被害にあった場合は裁判で解決すること。

アメリカのグローバル化戦略は、1980年代のGATTウルグアイ・ラウンドで、金融・情報・通信などのサービスや、商標・特許などの知的財産権の維持・強化に重点を移し、1990年代のクリントン政権では、資本移動の自由化や国内規制の撤廃を迫るようになった。NAFTAでは投資分野においてアメリカのルールを盛り込むことに成功したが、WTOでは各国の危惧を招いて部分的成功にとどまった。OECDでも多国間投資協定(MAI)の成立を画策したがフランスが離脱し、米州自由貿易地域(FTAA)でもブラジルが反発して、いずれも失敗した。TPPでも、投資条項は当初の参加4カ国の協定には存在せず、アメリカが持ち込んだもの。

ISD条項は、外国資本が相手国政府に損害賠償を請求する手段として用意されたもの。審理は世界銀行傘下の国際投資紛争解決センター(ICSID)で非公開で行われ、強制力を持ち、上訴することもできない。ISD条項はNAFTAで導入されたが、WTO、OECD、FTAAの失敗の原因となったが、米韓EPAで盛り込まれた。NAFTAでISD条項を受諾したカナダは、ガソリン添加物の神経有毒物質を禁止した規制が撤廃に追い込まれたり、水の大量輸出を禁止したBC州が損害賠償を請求されたりしている。

前半の日米構造協議に始まる歴史、小泉政権で次々に実現した政策や民主党政権下の規制・制度改革の実体、郵政民営化と農協改革の目的などは勉強になった。アメリカの要求はアメリカの関連業界の思惑に基づいている。アメリカの要求が日本の国益に資するものであればアドバイスとして参考にすればいいが、日本にプラスになった具体例を著者は思いつかないと書いている。「同盟のコスト」がいかに大きいかを改めて知らされた。

国家の存亡国家の存亡
関岡 英之 / PHP研究所 (2011-04-21)
タグ:経済 貿易