2017年09月24日

『南海トラフ地震』山岡耕春 岩波新書

南海トラフ地震のメカニズム、今後の発生確率の根拠、誘発される断層型地震、被害想定が丁寧にまとめられていて読みやすい。

南海トラフ沿いの深さ40km以上の場所は温度が300℃以上で、ずれの速さが大きくなっても摩擦力が小さくならないため、境界面は常に一定の速度でずれ動いている。地震を発生させる温度の低い場所と常に動いている場所との間は両者の中間的な性質のため、プレート境界のスロースリップに伴う深部低周波地震が半年に1回の頻度で起きている。スロースリップは、その場所のひずみを解消するが、浅い側の巨大地震発生域にひずみを増大させる。

浜名湖付近と豊後水道付近、紀伊水道付近では、プレート境界面が地震を起こすことなくゆっくりとずれ動くスロースリップが起きる。スロースリップが発生することによって、周囲のひずみは大きくなる。

フィリピン海プレートは、紀伊半島の下では周囲に比べて深い角度で沈んでおり、プレート表面の摩擦力が強くずれにくい。潮岬を超えて地震が連動しにくいため、東は東海地震と東南海地震、西は南海地震と呼ばれている。

南海トラフの地震は、繰り返し間隔が一定とする固有地震モデルの方が、地震発生頻度を一定とするポワソンモデルより当てはまるという研究結果がある。固有地震モデルを用いた今後30年間の地震発生確率は3%になるが、信頼性の高い宝永地震以降のデータを用いると25%となる。さらに、安政地震から昭和の地震まで90年と短いため、地震の規模とその次の地震までの間隔が比例する時間予測モデルを用いると、今後30年間の地震発生確率は70%となり、防災上の観点からこの確率が発表されている。

地震は、発生頻度の対数がマグニチュードに比例して減少するグーテンベルグ・リヒター(GR)則というべき乗則に従い、マグニチュードが1増えると発生頻度は10分の1になる。この法則は固有地震モデルと相容れず、最大規模の地震は特別であるという考え方をとり入れなければならないが、議論は分かれている。

過去の南海トラフ地震が発生する前の数十年間は特に近畿地方の地震が活発化し、南海トラフ地震が発生した後の10年程度は西日本内陸の地震活動が活発化している。プレートの沈み込みが進行するにしたがって、西日本の内陸にかかる力が増加するために発生しやすくなる断層と、巨大地震が発生した後にプレートを押していた力が抜けるために、活断層の割れ目を閉じる力が減ってずれやすくなる断層があると考えられる。

津波による浸水の高さが30cmになると、人は倒れて流される。2mになると木造住宅が浮力で浮き上がり流される。被害を受けたライフラインのうち、電力は1週間でほとんどが回復するが、上水道や都市ガスは1週間後も6〜7割が復旧せず、95%復旧するまでに1か月から2か月かかる。LPガスの復旧時間は短い。携帯電話は、地震直後には8割程度の接続が可能。1〜2日後には基地局の非常用電源が停止するため、8割程度が利用不能になるが、1週間程度で9割以上の基地局が復旧する。

巨大地震の前後には内陸の地震活動が活発化するとの研究結果は、地震の活動期の有無があると解釈でき、巽氏の見解とは異なるのかもしれない。プレートを押す力が増したり、抜けたりすることによって発生頻度が増えるとの説明の方に説得力があるように思う。

南海トラフ地震南海トラフ地震
山岡 耕春 / 岩波書店 (2016-01-21)
タグ:地学
2017年09月04日

『パンドラの種』スペンサー・ウェルズ

著者は遺伝学と人類の移住の研究者で、他に「アダムの旅」などを書いている。取り上げるテーマは人類史、農耕の開始、病気、気候変動など幅広いが、原理主義を取り上げた最終章は興味深かった。

ネアンデルタール人は、現生人類とよく似た舌骨を持っていたことから、ホモ・サピエンスと分かれる50万年前までには話し言葉が出現したと考えられている。

7万5000年前から7万年の間にトバ火山が過去200万年で最大の噴火を起こした。吹き上げられた火山灰によって世界の気温は5〜15度下がり、低温は1000年も続いた。8〜5万年前、ヒトの化石などの形跡が枯渇しており、7万年前の人口は2000人だったと推定される。7万5000年前から、複雑な幾何学模様が彫られたオーカー(赤鉄鉱)が見つかり始める。6万年前から、槍の先端に骨を用いて非常に細くするようになり、それまでよりはるかに精巧な道具が作られ出した。その頃から人口も増加し、アフリカより外の世界への居住にもつながった。

植物の栽培は世界各地で起きているが、すべて山岳地帯である。過去数百万年の気候変動に対しても種を保つ場所となり、多様性に富んだ場所だったためと考えられる。1万3000年前に長江流域で米を食べていた証拠が見つかっているが、ヤンガードリアス期にイネの化石は姿を消し、温暖期に戻った時には栽培化されていた。世界の3大穀物はいずれも、最終氷期が終わって温暖化し始めた頃に好んで採集されるようになって人口が増加し、気候が厳しくなったヤンガードリアス期に栽培せざるを得なくなったようだ。人類の遺伝子の変異はどれも過去1万年以内に起きており、この期間に強い選択圧を受けたことを示している。

プラスモディウムDNAの研究によると、マラリアがアフリカから大規模に拡大したのは過去1万年以内であることがわかる。蚊は繁殖に日の当たる浅い水たまりを必要とするため、森の中に開けた場所をつくったり、貯水池や水路をつくったりすると、うってつけの場所になったに違いない。

イスラムの教義を厳格に遵守することを求めるムスリム同胞団は、エジプトが衰えつつあった1920年代に創設され、1940年代後半には数百万人のメンバーを抱え、労働団体や政党とも協力に結びついていた。ムスリム同胞団のメンバーだったサイード・クトゥブは、逮捕されて服役中に「イスラム原理主義の道しるべ」を著し、シャリーア(イスラム法)の実践と、世俗主義に対するジハード(闘争)を訴えた。ハマスはムスリム同胞団から派生した過激なパレスチナ組織として1987年に創設された。1988年に創設されたアルカイダは、サイード・クトゥブの著作の傾倒し、オサマ・ビン・ラディンが用いた。

アメリカでも、1960年代の社会の激変によって家族の価値が否定されたことを背景にして、1956年に創設されたバブティスト協会がマスメディアの力を借りて全米に知られるようになった。1979年に保守的なキリスト教政治団体モラル・マジョリティを結成されると、ロナルド・レーガンはその団体にうまく取り入って大統領選挙に勝ち、共和党も農村地帯の南部や家族の価値を重視する人々、モラル・マジョリティを加えて再結成された。

西欧社会に始まった数百年前からの合理主義や科学に基づくロゴスの体制への移行によって、世界を神秘的なものとして主観的に受け止めるミトスを指針としていた文化は取り残されるか征服された。原理主義は、ミトスの喪失感を覚える人々がそれを取り戻そうとしているプロセスであり、現代社会の主流の外に別の文化を築こうとする欲求である。

パンドラの種 農耕文明が開け放った災いの箱パンドラの種 農耕文明が開け放った災いの箱
スペンサー・ウェルズ / 化学同人 (2012-01-26)
タグ:人類学 宗教
2017年08月08日

『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』巽好幸 幻冬舎新書

マグマや火山の形成、噴火の要因、富士山や巨大カルデラ噴火について、わかりやすくまとめられている。

マグマは、海洋プレートが沈み込んだ100km以上の深さでプレートから絞り出された水とマントルが反応して生まれる。玄武岩質マグマは、比重が重いマントルの中を上昇した後、ほぼ同じ比重の地殻の底で止まる。そこで冷えて結晶化したものが沈み、液体部分に軽い二酸化ケイ素が増えた安山岩質マグマが残ると、地殻より比重が軽くなって上昇し、地殻内にマグマだまりをつくるが、地表に到達するまでに大部分は結晶化する。これによって大陸地殻が成長することになる。一方、伊豆・小笠原弧の地殻は重くて薄いため、玄武岩質マグマが上昇しやすく、大量のマグマが海底に達して大きな海底火山を形成する。

マグマ溜まりが地震によって揺さぶられると、発泡現象によりマグマに溶け込んでいる水が気体となって圧力が高まり、岩盤に割れ目ができると体積が増えてさらに発泡が起きることを繰り返して噴火を起こす。巨大地震が起きると歪みが解放されて、地盤に働く力が圧縮から引っ張りへと変化するため、マグマ溜まりの圧力が下がることも噴火の要因として考えられる。噴火マグニチュードは、噴出物の総重量(kg)の常用対数から7を引いて求める。

数十万年前、伊豆半島周辺では、箱根火山、愛鷹火山、先小御岳火山、天城火山などの火山活動が盛んだった。箱根火山は6万6000年前にM6.1の大噴火を起こし、火砕流は横浜まで到達し、都内に20cmの東京軽石層を形成した。富士山は未熟な地殻の上に作られたため、玄武岩質でできており、密度が重く、粘性が低いためにストロンボリ式噴火を繰り返し、円錐形の山体ができあがった。

富士山が噴火すれば、降灰が50cmに及ぶ富士吉田や御殿場では家屋に被害をもたらし、10?になる大月以南、三島以北、神奈川県の大部分では鉄道や道路が通行不能になる。2cmの降灰が予測される中伊豆、東京、千葉の大部分では、電機や水道の供給が止まり、農作物は収穫不能になり、呼吸器系疾患をもたらす。

巨大カルデラ噴火は、プリニー式噴火によって大量のマグマが噴出した後に、カルデラが陥没していくつもの割れ目が生じてクライマックス噴火を起こすもの。8万7000年前の阿蘇4噴火(M8.4)では、自らの熱によって火山灰同士がくっついた溶結凝灰岩によって宮崎県の高千穂峡や大分県の滞迫峡ができ、北海道でも15cmの火山灰が積もった。2万9000年前に起きた姶良カルデラ噴火(M8.3)は、火砕流が九州南部を覆い尽くし、鹿児島地方でシラスと呼ばれる200m近くの火山灰層をつくり、偏西風によって運ばれた火山灰は、10?以上の丹沢軽石の火山灰層(AT)や鳥取県大山周辺の20cmのキナコと呼ばれる火山灰層を形成した。7300年前の鬼界アカホヤ噴火(M8.1)では、九州南部に30cm以上の火山灰が降り積もり、南九州の縄文人は絶滅した可能性が高い。鬼界アカホヤ噴火のエネルギーは、大型台風の10倍、富士山宝永噴火やM9地震の800倍にもなる。

著者は、災害対策の必要度の指標として、その死亡者数と発生確率を掛け合わせた「危険値」を用いている。
南海トラフ地震 推定4%×32万人=12800人/年
巨大カルデラ噴火 推定0.003%×1億2000万人=3600人/年
首都直下地震(M7以上) 推定4%×2万3000人=920人/年
富士山山体崩壊 1/5000年×40万人=200人/年
豪雨・土砂災害 実数100人/年
阪神淡路大震災 前日の確率0.02〜8%×6400人=1〜500人/年
富士山噴火 推定1/1000年×1万4000人=14人/年

富士山大噴火と阿蘇山大爆発富士山大噴火と阿蘇山大爆発
巽 好幸 / 幻冬舎 (2016-05-28)
タグ:地学