2014年05月29日

「非属の才能」山田 玲司

予想以上に内容が濃く、明快な主張が繰り広げられた本だ。著者は小学生の時から「やることが多すぎて授業を聞いている暇などなかった」というから、生まれながらの非属の才能の持ち主だ。中学、高校でも、授業を聞かずに漫画を描いたり、謎の未確認動物の研究などをしていたという。

様々な非属の才能の持ち主を紹介している。黒柳徹子は「窓ぎわのトットちゃん」の中で、フタ付きの机を音を立てて開け閉めし、通りかかったチンドン屋を学校に招き入れて1曲披露させたといったトラブルが絶えなかった少女だったことを明かしている。小学校を退学させられたトットちゃんが転校したのは、子どもたちの素質を大きくすることを教育理念とし、黒板に書かれた科目の中から好きなものを選んで勝手に始める授業スタイルの学校だった。

3か月で放校されたエジソンの母は、地下室にさまざまな化学薬品をそろえて、好奇心のおもむくままに物事を調べて実験できるようにした。著者は「もし、トットちゃんやエジソンを教室に閉じ込め、いい子に育てることに成功したら、その損失は本人だけにとどまらないだろう」という。

ダーウィンは23年間かけて進化論を完成させたが、そのほとんどの時間を研究室にこもって費やした。現代社会に増えている引きこもりの人々は「この世界は自分にとって異常だ」と考えている。彼らを社会復帰させようとすることは、自宅にこもっているダーウィンを教会に連れて行き「人間は神がつくった」と信じ込ませようとしているのと同じだと言う。

著者は、引きこもりは楽をとらず自分の感覚を信じるという苦行を選んだ人たちであり、引きこもりをバッシングする人間の方が甘えていると言う。大きな群れの中で、思考停止という甘えた状態にいるからだ。みんなが世界中で買える飲み物を飲んだり、みんなが見るテレビ番組を見たり、ブランド物を買ったりするのは、自らの頭で考えようとしない思考停止の群れとなっている。最近増えてきた郊外型の巨大ショッピングモールに並ぶ、成功した有名店のフランチャイズを、著者は「大きな口を開けて魚の群れが飛び込んで着るのを待ち構えている定置網に見える」という。

本書の内容は、私には至極論理的で、極々自然な主張にしか思えない。歴史を振り返ってみると、幕末に西洋列強の脅威にさらされてから富国強兵・脱亜入欧、国家総動員の戦争を経て資本主義の競争社会へと至る中で、教育の平準化とともに国家や企業への意識が強められてきた。資本主義もグローバリゼーションも西洋の論理で進められてきたものだ。日本はそれに負けんがために同じ土俵に上ることを選び、国民はその枠組みに従うことを求められてきた。現代社会において大衆の論理が大手を振っているのは、いまだにその歴史の流れの中にあるからだろう。

国家や企業にとって便利な一員になる必要はない。みんなの行動に合わせる必要もない。自らの道を行こうとすれば、牽制され、叩かれる社会に生きているのは不幸だが、自分の思い通りに生きる方が楽しい。その方法は、テレビなど外からのリアルタイムな情報を入れないこと、過去・現在の様々な非属の人間たちの生き方にヒントがある。高城剛、荒俣宏、さかなクン...

非属の才能 (光文社新書)非属の才能 (光文社新書)
山田 玲司 / 光文社 (2007-12-13)
タグ:生き方
2013年05月19日

「人に向かわず天に向かえ」篠浦 伸禎

脳が動物脳(大脳辺縁系)、右脳、左脳から成り立っており、そのバランスが必要だが、現在の日本は合理主義、成果主義、利益優先社会であり、左脳的な機能が過大に求められてバランスが崩れ、公よりも私が優先されていることが、メンタルの病や格差、社会の信頼の崩壊などの様々な社会問題をもたらしていると分析する。そして、右脳や公的脳を伸ばすには人間学が有効と主張している。

メンタルや社会の問題を右脳、左脳のバランスの崩れとしてとらえる考え方はおもしろい。特に教育の場で、左脳的な機能が優先され、戦前までの教育の中心だった経験則に基づく人間学が重要視されていないという指摘も的を射ていると思う。

・人間は、左脳的なセンスで科学技術を発展させ、便利で豊かな資本主義社会をつくりあげたが、心を豊かに育て進歩させる右脳的なセンスを失ってしまった。
・人間学の伝える公の精神や愛、弱いものに対する惻隠の情や義侠心の考え方は、弱った心に活力を注いでくれる。これは、右脳を暖かく刺激する力となり、脳全体をバランスよく活用させて、人間らしく動かす力になると考えられる。
・人間学は、失敗やつまずきによって自分の人生が否定されることはないことを思い出させ、広い視野を与えてくれる生き方のヒントを与えてくれる。
・人間学は、大きな目標、愛に基づいた志が必要だと繰り返し述べている。志を持つということは、目的に対していかに自分を律して努力を続けるかという、行動の原動力のようなもの。
・戦前の教育では、論語などの人間学、すなわち人間関係や人間の生き方を問う学問が教育の基本となっていた。そうした教育を受け、戦争の苦労を体験した人々が、戦後の復興の中軸となって世の中をつくってきた。この世代が1980年代に引退すると、利益優先の動物的な精神が世の中を席巻し始め、私が優先される社会のなかで、バブルも引き起こした。社会のひずみが、弱い立場にある若者や同人を追いこみ、うつや自律神経系の症状などの問題を引き起こしている面もあるだろう。
・戦後の教育は、左脳の機能である学校の成績でのみ評価するものであり、右脳の機能は評価されない。

<紹介されている本>
安岡正篤人間学(神渡良平)
西郷南洲遺訓(山田 済斎)
安岡正篤・中村天風の人望学(下村澄, 清水榮一)
世に棲む日日(司馬遼太郎)
日本人の神髄―8人の先賢に学ぶ「大和魂」(小田全宏)
春風を斬る―小説・山岡鉄舟(神渡良平)
本田宗一郎 こうすれば人生はもっと面白くなる!(一ノ瀬遼)

人に向かわず天に向かえ (小学館101新書 18)人に向かわず天に向かえ (小学館101新書 18)
篠浦 伸禎 / 小学館 (2009-02-03)
2011年07月19日

「孤独であるためのレッスン」諸富 祥彦

周囲に同調することを絶対的な善と考え、同質社会に適応することを迫られる日本に対して真っ向から挑んでいる力作。
自分にとって大切な何かを見つけることや、心のうちで人間を超えた何ものかと対話しながら生きるといった、他人に依存しない生き方を提示している点も秀逸。

・孤独、ひとりでいる人は危険であるとか無価値であると見る世間のまなざしが、追い詰めている。
・大人たちが、友だちをつくること、周囲とうまくやることに過剰に価値を置き、ひとりでいること、孤独でいることをきわめて否定的にみている。
・今の日本社会は、いつも見捨てられることに不安を感じていないと適応できない。友達集団から絶えず強い圧力をかけられ、その仲間と同質でなければ安定した生活を送ることができない状態に追い込まれている。
・自分にとって大切な何かを見つけた時に、それとわかるよう、心をオープンな状態に保っておく。そのためになら、どんなものでも捨ててもかまわないと思えるほど大切な何かが見つかったら、タフに生きていくことができる。
・何が本当に大切かを知り、それ以外のものは思い切りよく捨てることができることが、しあわせになるための近道。
・孤独をまっとうして生きていくためには、心のうちで人間を超えた何ものかと対話しながら生きていくような視点をもつこと、自分を超えた地点から自分を見つめるまなざしを持つことが不可欠。

孤独であるためのレッスン (NHKブックス)孤独であるためのレッスン (NHKブックス)
作者: 諸富 祥彦
出版社/メーカー: 日本放送出版協会
発売日: 2001/10
メディア: 単行本