2017年02月11日

ブックガイドの積極的な利用のすすめ

自分の読書歴があまりにも貧しいことに気づいて愕然とし、奮起して読み始めたのは2010年。しかし、書店の膨大な数の本の中から読むべき本を自分で探すのは簡単なことではないし、効率的でない可能性が高い。ネットのレビューも積極的に利用したが、最も役に立ったのはブックガイドだった。紹介されている本の中から関心を持ったものを読むことができるだけでなく、不案内な分野のトピックを知ることもできるし、関心の幅を広げることができる。何を読んだらいいかわからない読書初心者はもちろん、効率的な読書をするためにも、視野を広げるためにも、ブックガイドを積極的に利用することをお勧めします。

私は、これまでに50冊以上のブックガイドや書評集に目を通したが、その中からおすすめのものをまとめておきます。なお、私は文芸系の本はほとんど読まないので、文芸系のブックガイドも登場しません。悪しからず。

【自己啓発】
『ビジネスに効く最強の「読書」 本当の教養が身につく108冊』出口治明
リーダーシップ、人間力、意思決定のほか、国家と政治、グローバリゼーションなど10ジャンルの本を紹介。

『自己啓発の名著30』三輪裕範(ちくま新書)
自伝、人間論、生き方、知的生活の4つのジャンルに分けて紹介。古典が中心。

『成功本50冊「勝ち抜け」案内』水野俊哉
成功本50冊の紹介のほか、Part3には「成功法則ベスト10」がまとめられている。

【新書】
『新書がベスト』小飼弾(ベスト新書)
新書に絞った読書論を展開。Part3ではレーベル別に紹介しており、相当に読み込んでいることをうかがわせる。

『新書365冊』宮崎 哲弥(朝日新書)
発売された新書をすべて読破するコンセプトで、月刊誌『諸君!』に2002年1月から2006年3月まで連載された書評をまとめたもの。

【知識・教養】
『ぼくらの頭脳の鍛え方』立花隆・佐藤優(文春新書)
2人が自分の書棚から100冊ずつ、本屋の文庫・新書から100冊ずつ紹介。政治や国際関係、官僚の裏話なども語られている。

『面白い本』成毛眞(岩波新書)
読書の楽しみ方を教えてもらえる。『もっと面白い本』も。

『読書脳 ぼくの深読み300冊の記録』立花隆
立花隆の4冊目の書評集。読みどころがコンパクトに紹介されているので、書評を読んでいるだけでもワクワクする。『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』も。

『野蛮人の図書室』佐藤優
人生、日本、世界情勢の3ジャンルの本を紹介。

『世界と闘う「読書術」 思想を鍛える一〇〇〇冊』佐高信, 佐藤優(集英社新書)
宗教・民族と国家、戦争・組織、日本とアメリカなど9ジャンルの本を紹介。

『ノンフィクションはこれを読め! - HONZが選んだ150冊』成毛眞
ノンフィクション書評サイト〈HONZ〉の年間ベストを集大成。レビューを読んでいるだけでもおもしろい。2013年版2014年版も。

『読書は格闘技』瀧本哲史
心をつかむ、組織論、グローバリゼーションなど12ジャンルの本を紹介。

『ニッポン沈没』斎藤美奈子
「ちくま」誌に連載された「世の中ラボ」をまとめたもの。当時旬の社会問題について、斎藤が選んだ3冊程度の本をベースに論じている。

『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』宮崎哲弥
週刊文春の2001年1月〜2006年8月の連載をまとめたもの。日々の事件や事故、社会問題からテーマを決めて、それぞれ数冊ずつ論評している。

『大学新入生に薦める101冊の本』広島大学総合科学部101冊の本プロジェクト
101冊のほかに関連本も紹介も掲載されている。第5章の「本の買い方選び方」も充実している。

『「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する』橘玲
著者が「知のパラダイム転換が起きた」とする4分野(複雑系・進化論・ゲーム理論・脳科学)と功利主義に絞って読書案内をする。各分野についての解説も、その歴史を追う形で読みやすくまとめられている。

【分野別】
『科学の栞 世界とつながる本棚』瀬名秀明(朝日新書)
脳科学・心理学・生命倫理など、科学7ジャンルの本を紹介。

『福岡ハカセの本棚』福岡伸一(メディアファクトリー新書)
生物学や科学が中心と思いきや、フェルメールや建築、小説なども紹介されている。

『サイエンス・ブック・トラベル: 世界を見晴らす100冊』
科学者、ライターなど30名が3冊ずつ紹介する。

『世界を知る101冊――科学から何が見えるか』海部宣男
毎日新聞の「今週の本棚」で紹介してきた101冊を掲載。科学全般、人間、生物、科学者、科学論のほか、文系の世界や歴史と文化、未来の分野の本も取り上げている。

『文系のための理系読書術』齋藤孝
文系の人たちに生物学、数学、医学などのおすすめ本を紹介する。

『使える経済書100冊 (『資本論』から『ブラック・スワン』まで)』池田信夫(生活人新書)
本の紹介を通して経済に関するホットなトピックも見えてくる。評者のスタンスが明快に述べられているのも、論点を理解しやすい。特に「日本型資本主義の限界」の章が興味深かった。

『世界史読書案内』津野田興一(岩波ジュニア新書)
高校教師が授業で生徒に薦めていた本をまとめたもの。

『新・現代歴史学の名著―普遍から多様へ』樺山紘一(中公新書)
歴史学の代表的著作18冊を紹介。
2016年06月17日

『「読まなくてもいい本」の読書案内』橘玲

著者が「知のパラダイム転換が起きた」とする4分野(複雑系・進化論・ゲーム理論・脳科学)と功利主義に絞って読書案内をする。各分野についての解説もその歴史を追う形で読みやすくまとめられている。

複雑系については、マンデルブロを軸にその歴史を追っている。マンデルブロがプリンストン高等研究所の博士研究員となった時、ノイマン、オッペンハイマー、アインシュタイン、ゲーデルなどの知性が集まっており、のちに「この時(の経験)を超えることがなかった」と回想している。マンデルブロは「複雑系」という言葉は使わず、「ラフネス」や「フラクタル」を使った。複雑系を研究する数学・物理学であるカオス理論は、エドワード・ローレンツがコンピュータによる天候のシミュレーションから発見したバタフライ効果に始まり、それは臨界状態と相転移で説明される。

ゲーム理論が生まれた時代背景には、米ソが核兵器で対峙した冷戦があった。ジョン・フォン・ノイマンは、ノイマン型コンピュータを開発してコンピュータの父と呼ばれるが、プリンストン高等研究所やランド研究所、ペンタゴンやマンハッタン計画などにも関わり、生きた伝説となった。「ゲームの理論と経済行動」はベストセラーとなり、死の直前まで対ソ戦の戦略を聞こうとする国防長官や米軍幹部たちに囲まれていた。ジョン・フォーブス・ナッシュは、21歳でゲーム理論の金字塔となった論文を発表した(ナッシュ均衡)。30代で統合失調症を発症し、長い闘病生活を送ったが、60代になって奇跡的に回復したことでも有名になった(「ビューティフル・マインド」)。ゲーム理論は古今東西の戦略書を片っ端から分析できることを示し、戦争や競争の戦略については強力な説明能力を持ち、生物の生態も説明できることもわかった。しかし、経済学においては、すべての情報を入手して合理的に行動する前提が当てはまらない。ダニエル・カーネマンは、人にはファスト思考とスロー思考(直感と理性)があり、負荷が低いファスト思考に頼りがちであることを明らかにした(「ファスト&スロー」)。限定合理的な人間をモデルにした行動ゲーム理論では、ゲームを繰り返すことによって学習し、ひとつの均衡に収斂していくことが示されている(ロジット均衡)。しかし、市場や社会は複雑系だから、個々のゲームから全体を理解することはできない。これに解決を導くツールとして、統計学やビッグデータが活用されている。

進化論では、相手の内面を読解する能力が長けていることが有利であることから、相手の気持ちを映す鏡を自分の中に持つようになり、自分という意識を生み出した(ニコラス・ハンフリー「内なる目」)。

最終章では、社会をよいものにするための功利主義が取り上げられる。フランス革命後、右翼を王党派で共同体主義の保守派が、左翼を共和派が占め、共和派は自由を求めるリベラルと、平等を重視するデモクラットがいた。その後、経済格差を悪として徴税や再分配で結果を平等にする立場がリベラルと呼ばれるようになり、本来の自由主義者はリバタリアンを名乗るようになった。市場は複雑系なので、ネットワークのハブに多くの資源が集まり、富は集中して格差は拡大する。功利主義は、最大多数の最大幸福の原理としてジェレミ・ベンサムが提唱した。ジョン・ロールズは、人はリスク回避を好むのだから、自分が不利な状態で生まれてくるリスクを想定して、その利益が最大になるようなルールを人は好むはずだと考えた(「正義論」)。アマルティア・センは、機能と潜在能力(なし得ることとなり得ること)の最大化を目指すことを提言した(「人間の安全保障」)。マーケットデザインは、市場の機能が使えないときにゲームを上手にデザインする技術で、誰にも不利益を与えずに幸福を追求するのはよい(パレート効率性)、抜け駆けによる利益がないこと(個人合理性)を「コア」として重視する。ウソを申告するなどの戦略によって利益を得ることができないこと(耐戦略性)を満たしたコアを実現することはできないことが数学的に証明されているが、戦略によって市場全体の配分を変えるのは難しい。

著者がこの本で取り上げた分野の位置づけが237ページの図で表されている。進化論が土台にあり、神経レベルの遺伝学や脳科学と意識レベルの進化心理学、個人レベルの行動ゲーム理論や行動経済学と社会・経済レベルの統計学やビッグデータが、それぞれミクロとマクロの関係で位置づけられ、どちらも複雑系の理解が役立つというイメージだ。これらの分野以外を読書リストから除外するかどうかは各個人の判断だろうが、取り上げられた分野の概要紹介とブックガイドとしては、とても刺激的で、久しぶりにワクワクする本を読んだという読後感だった。

著者が紹介している本の一部は、橘玲紹介に掲載されている。

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する
橘 玲 / 筑摩書房 (2015-11-26)
2015年03月30日

「<問い>の読書術」大澤真幸

思考を促す本25冊を選んで、その論点を紹介するにとどまらず、さらなる考察を進めていくような内容。書評をするには本の内容を簡単に紹介することになるが、それがかみ砕く形でまとめる結果になっており、入口に導いてくれる。特に、市場主義経済、マルクス経済学、宇宙論、網野史学といった、とっつきにくかったテーマがわかりやすかった。

経済学にはさまざまな流派があったが、やがてシカゴ学派が一人勝ちして、市場主義の政策が進められていった。市場主義経済学では、失業や景気変動、バブルは発生しないとの帰結が導かれるが、実際にはどれも起きている。ケインズのマクロ経済学では、市場主義経済学では説明できない貨幣の流通を洞察している。市場主義経済を見直すには、グローバル経済のレベルを落として、各国の社会構造、文化、経済システムの多様性に配慮した政策を採用できる余地を増やし、成長主義から脱却する必要がある(「経済学の犯罪」佐伯啓思)

商品が売れないということは、人々がお金への強い欲望を持っていることだが、新古典派経済学では貨幣への欲望が存在しない社会を前提としている。財政政策は有効需要を増やさない。金融緩和をしても物価・GDPは上がらない。外需をあてにしても景気は良くならない。産業保護政策は雇用維持に常に逆効果(「成熟社会の経済学」小野善康)。

真核細胞は、タンパク質をつくるのに必要な物質が不足しているとき、2つの細胞が合体して2nのディプロイド細胞になることがある。ディプロイド細胞は協調性が高く、多細胞生物になることができるが、細胞分裂に限界がある。生殖細胞は、ディプロイド細胞が減数分裂して分裂能力を回復したもの(1nのハプロイド細胞)。有性生殖は死を回避するために生み出された(「性と進化の秘密 思考する細胞たち」団まりな)。

物々交換は互酬的な贈与(持続的な束縛関係)になる可能性がある。贈与関係のネットワークから切り離された場所として、共同体が外部と接する場所に市場が置かれた。ヤマト政権が整えた律令制によって土地を課税の基礎とする体制ができ、農本主義が定着したが、日本社会は交易や商業を行う重商主義とのせめぎあいを続けることになった。14世紀の南北朝動乱を経て、信長、秀吉、家康へと向かう中で、農本主義が優位を占めて商業のネットワークは抑圧されることになった(「日本の歴史をよみなおす」網野善彦)。

全くタイトル負けしていないのが唸らせる。恐れ入りましたという読後感だった。

<問い>の読書術<問い>の読書術
大澤真幸 / 朝日新聞出版 (2014-09-12)