世界は、3つの勢力の三つ巴になっている。
・オールド・グローバリズム:グローバル化を主導してきた大手金融機関や投資家、メディア、既成政党。テロや保護主義、極右排他勢力が生まれることを懸念し始めていた。
・アンチ・グローバリズム:グローバリズムによって、職を失ったり薄給を強いられつつある人びと
・ネオ・グローバリズム:金融規制などに反対し、一層のグローバル化の推進を主張するヘッジファンド、IT業界、ネオコン。無国籍で、徹底的に自己利益のみを追求する。
ネオ・グローバリストが、処々の規制を食い止めるために、敵の敵であるアンチ・グローバリストを支援したのが、トランプの勝利やブレグジットが実現した理由。
第一次世界大戦後、アメリカのウィルソン大統領はヴェルサイユ会議で国際連盟規約に調印し、議会の批准を求めた。ウォール街の金融関係者や外交評論家、ジャーナリスト、学者たちは、グローバル化しつつあったアメリカの経済国益を確保するために、自らの立場を「国際主義」と呼び、反対する陣営を「孤立主義」と呼んで批判した。しかし、ウィルソン大統領が第一次大戦に参戦したことによって多くのアメリカ人が戦死したこと、フランスが「勢力均衡」の名のもとに敷いたドイツ包囲網にアメリカも加わるよう求めていることに反発した条約反対派に敗れた。国内問題に集中した1920年代の10年間は、GNPが3倍近くに増大した。アメリカ建国の父であるジョージ・ワシントンも、18世紀のヨーロッパの王国同士が延々と領土拡大の戦争を続けていたことを背景に、1796年に対外不介入主義の演説を行っている。戦後のアメリカの対外関与政策は、建国以来の根本理念とは正反対のものになっている。世論の強い国では、民意の振れ幅が大きすぎるゆえに、政治・外交の振る舞いが反転してしまうため、どちら向きにもなり得る。
戦後、アメリカは西ドイツをNATOに取り込もうとしたが、フランスが拒んだため、当時始まっていたヨーロッパ統合の流れを利用して実績をつくろうと考え、欧州石炭鉄鋼共同体を発足させた。EUも、ASEANも、日米安保も、NATOも、アメリカが作ったパックス・アメリカーナの副産物のようなもの。NATOは米英同盟を核として、仏独などをアメリカについないでいるもの。CIAもNSAも、中国、チベット、南シナ海、ロシアや北朝鮮などの監視機構は、暗号解読や電波傍受を含めてイギリスの協力なく成り立たない。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを含むアングロサクソンによるファイブ・アイズ同盟には、互いに監視基地を持つことができ、極秘の情報を共有する不退転のシステムができあがっている。ドイツ統一は、NATOを東方に拡大させないという約束の下にゴルバチョフが認めたにもかかわらず、ソ連崩壊によって破られた。ロシアの反西側の世論は、このアメリカの嘘に不信感を持ったことが大きな原因。
ドイツとロシアは、自分たちの合意によってヨーロッパ全体を運営したいという意向がある。ドイツはエネルギーの4割をロシアからの天然ガスに依存し、工業製品も輸出している。プーチンはかつて東ドイツで活動していたことがあり、メルケル首相はロシア語に堪能で、ロシアの女帝エカテリーナ二世の肖像画を執務室に掲げている。歴史的にも、プロイセンが主導したドイツ統一は、ロシアが中立を保ち、普仏戦争でフランスを孤立させたためだった。さらに、ドイツが中国に接近する影響も大きい。1920年代より、中国の国民党政権はドイツから軍事顧問団を招いていた。1933年にナチスが政権をとると、中国に対してさらなる人的支援、武器支援を行い、中国軍の近代化を進めた。日本が日独伊三国同盟を結んだのも、ドイツを中国から引き離すことにあったが、その結果として対米英戦争を招いてしまった。
著者は、アメリカ一極から多極化への移行は、安定的で公平な世界があるという。次作ではそれを論じたいと書いている。
日本人として知っておきたい「世界激変」の行方
中西 輝政 / PHP研究所 (2016-12-16)
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