2015年12月26日

「世界史の極意」佐藤優 NHK出版新書

現在の世界情勢を理解するために歴史的背景を探るというスタンスで、資本主義、民族・ナショナリズム、宗教に絞って流れを概観している。

<資本主義>
マルクスは、資本主義社会の本質は労働力の商品化であると考えた。労働力の商品化には、自由に移動でき、土地や生産手段を持たず、労働力を維持するための生活費、労働者階級を再生産する養育費、時代の進歩についていくための教育費をまかなうことができる賃金を得る必要がある。

近代資本主義は、15〜16世紀のイギリスで始まった。ヨーロッパの寒冷化によって毛織物の需要が高まったため、羊を飼うための囲い込みが進み、追い出された農民は都市に流れて毛織物工場で働いた。スペインやポルトガルでは、金銀は浪費されたり、教会に寄進されたりして、資本は蓄積されなかった。オランダには羊を育てるのに適した土地がなかった。

16世紀以降、資本主義は、重商主義→自由主義→帝国主義→国家独占資本主義→新自由主義と変遷してきた。重商主義は国家がスポンサーになって国富を蓄積するもので、他国の鉱山を開発して奪う重金主義(16c)、貿易黒字を重視する貿易差額主義(17c)、国内輸出産業を保護育成する産業保護主義と移った。産業革命が起きて産業資本が強くなったイギリスで、19世紀半ばに国家の規制を廃した自由貿易が確立した。1870年代に鉄鋼や内燃機関、電気などの分野で技術革新が起こって重化学工業が進み、ドイツやアメリカが成長すると、資本が国家と結びついた帝国主義の時代になった。1920年代にムッソリーニが展開したファシズムはナチズムとはまったく異なるもので、自由主義的資本主義がもたらした失業、貧困、格差などの社会問題を、国家が雇用を確保して所得を再分配するなどの介入をして解決することを目指した。

1917年のロシア革命によって社会主義体制ができて冷戦期になると、社会主義革命を阻止するために、純粋な利益追求に歯止めをかけて福祉政策や失業対策などの政策をとる国家独占資本主義の時代になった。1991年にソ連が崩壊すると、新自由主義が主導権を握ってグローバル化が進んだ。グローバル化が進むと、国家は徴税機能が弱体化するため、機能を強化する方向に向かう。

覇権国家が存在する時代には自由主義になるが、覇権国家が弱体化すると帝国主義の時代になる。2000年代に新興国経済が発展し、2008年にはリーマンショックでアメリカの弱体化が進み、新帝国主義の時代に突入したと著者は考える。2008年のロシア・グルジア戦争は、グルジアとつながりが深かったアメリカが弱体化したことが背景にある。南スーダンを独立させたのはアメリカの工作で、石油開発によって生じた資金がイスラム過激派に流れることを阻止することも目的だったと考えられる。アメリカがミャンマーとの関係を改善したのは、中国のインド洋へのルートやイランとのパイプラインを阻止するためだった。

<民族・ナショナリズム>
ベネディクト・アンダーソンは、エリート層が国家を統治する目的でナショナリズムを利用したと考える道具主義を提示した。16世紀前半に発達した出版業によって出版用の言語がつくられ、標準語となっていった。一方、学校の授業で言語を教育することによって支配者層が「国民」を創出した公定ナショナリズムも進められた。アーネスト・ゲルナーは、産業社会が進んで人々が移動の自由を獲得し、社会が流動化するとコミュニケーションの能力が必要になるため、国家が教育制度を整えて言語が標準化され、同質性が生まれたと考えた。一方、アントニー・D.スミスは、ネイションを形成する共通する祖先・歴史・文化を持ち、連帯感をもつことのできる「エトニ」があると考えた。

16世紀のヨーロッパでルターが始めた宗教批判は、神聖ローマ帝国で1618年に始まった三十年戦争でピークに達した。1648年のウェストファリア条約によって、各国が内政権と外交権を持つ主権国家体制が確立した。

<宗教>
フランス革命から第一次世界大戦が勃発する1914年までの「長い19世紀」は啓蒙の時代で、科学技術と人間の理性によって理想的な社会をつくることができると考えられていた。一方で、これはナショナリズムの時代でもあり、その結果として起きた2つの世界大戦によって啓蒙の時代は終わりを告げた。しかし、勝利を収めたアメリカは啓蒙思想や合理的思考がもたらす負の帰結に対する洞察を得ることなく現在まで続いている。

イスラム教スンニ派は4つの法学派に分かれており、そのひとつであrハンバリー学派の中にワッハーブ派がある。ワッハーブ派は、コーランとハディースしか認めず、原始イスラム教への回帰を唱え、極端な禁欲主義を掲げる。アルカイダ、IS、タリバンなどの過激派は、すべてワッハーブ派の系統。

EUの価値観の根底には、ユダヤ・キリスト教、ギリシア古典哲学、ローマ法の3つから構成されたコルプス・クリスティアヌム(キリスト教共同体)という概念がある。20世紀初頭に神学者トレルチが提示したもので、EUは2度の世界大戦を経てナショナリズムを抑制するために生まれた。

世界史の極意世界史の極意
佐藤 優 / NHK出版 (2015-01-08)
タグ:世界史 経済
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