2015年06月02日

「炭水化物が人類を滅ぼす」夏井 睦 光文社新書

体型に問題意識はないのだが、後半の生物学的、人類史的な視点がおもしろそうだったので読んでみた。

国が発表している食事バランスガイドは、日本人の平均的な食事を基にして作られたもので、栄養学的な根拠はない。食品のカロリーは、食べ物とそれを食べて出た排泄物をそれぞれ燃やして発生した熱量の差を基に、人間の消化吸収率や腸内の分解効率を掛けて計算したもの。

筋肉は安静時や軽度の運動時には脂肪酸を使っている。脂肪酸からはブドウ糖に比べて1分子あたり4倍のATPが作られるため、効率が高い。激しい運動のときには、肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンを分解してブドウ糖を作る。脳・網膜・赤血球は、水溶性のブドウ糖とケトン体をエネルギーとする。脂溶性で細胞膜を通過でき、情報伝達の邪魔になる脂肪酸は血液脳関門(BBB)で排除している。

人間の血液には1リットル当たり1グラム(100mg/dl)のブドウ糖が含まれている。血糖値が低下すると、脂肪酸から作られたエネルギーを用いて、備蓄されているタンパク質を分解してブドウ糖を作る(糖新生)。糖質食を摂取して血糖値が上がると、インシュリンを分泌して余分なブドウ糖を中性脂肪に変えて脂肪細胞に蓄える。

本書の主題である糖質制限の根拠はこれだけ。甘みの魔力によって摂り過ぎた糖分は脂肪として蓄えられるのはわかるが、糖質を摂り過ぎると太るのは常識のレベル。糖質の代わりに増やすタンパク質や脂質(肉や脂)は摂り過ぎることはないのかという疑問を抱くが、この点はよくわからなかった。著者は穀物生産の問題を多々指摘しているが、一般的には畜産の飼料に大量の穀物が消費されていることを問題視する視点の方が多い。豆腐などの豆類は栄養面でもいいので、居眠りをしなくなるのが本当なら、糖質の割合を少し減らしてみようとは思う。

以下の食事にまつわる生物学的な考察はおもしろかった。

地球上の生命のエネルギー獲得方法の歴史は、硫化水素還元→ブドウ糖代謝(嫌気→好気)→脂肪酸代謝と移り、それに伴って神経系や筋肉を発達させてきた。多細胞生物に進化する際、植物はブドウ糖を難溶性多糖類を、動物は中性脂肪をエネルギーの体内貯蔵方式として採用した。神経系の進化について著者は、多細胞生物が無胚葉→二胚葉→三胚葉と進化する過程で、体表面の外胚葉が外部情報センサー→分散神経系→中枢神経に進化したという仮説を提示している。

ウシの胃の中では、牧草はセルロース分解微生物によってブドウ糖になり、共生微生物がブドウ糖を嫌気発酵によって各種脂肪酸やアミノ酸を生成する。第4の胃で胃酸が分泌されて共生微生物が分解され、脂肪酸やアミノ酸とともに吸収される。複数の胃をもつ動物は発酵のための大きな胃袋と体が必要なため、ヤギより小さな動物はいない。

ウマには共生細菌を持つ巨大な結腸があり、胃で消化吸収した残りを分解して低級脂肪酸を吸収している。ウシのように菌体を分解してタンパク質を吸収することができないため、ウマは穀物やイモ類、豆類を食べる必要がある。ウサギは、共生細菌を持つ盲腸が発達しており、共生細菌を含む糞を食べることで草だけで生きていける。

人間の汗腺はエクリン腺がメインで、アポクリン腺はわきの下や外陰部などに限られているが、エクリン腺をもつ動物は霊長類やカモノハシなどのみで、アポクリン腺が一般的。アポクリン腺は皮膚と毛を守るために発達した器官で、獣弓類は持っていたと考えられている。成分は新生児に必要な栄養素とほぼ一致し、乳腺はアポクリン腺から進化した。一方、爬虫類の祖先である竜弓類は皮膚腺をほとんど持たず、厚い角質層で作られた鱗によって乾燥を防いだ。

炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学
夏井 睦 / 光文社 (2013-10-17)
タグ:食事 生物学
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