2014年09月26日

「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン

ハチのコロニーが突然失踪して崩壊する原因を、いくつもの可能性を探りながらひとつひとつ追及していく内容は、著者自身が書いている通りミステリーのようでおもしろい。本書では、結論として様々な要因が絡んだ複合汚染としてまとめている。世界のアーモンドの82%がカリフォルニアで生産しており、その受粉のためにアメリカ中のミツバチが駆り出され、過密な仕事場で過酷な労働を強いられているという。トウモロコシや畜産業に見られるようなアメリカ式の効率主義が、こんなところでも同じような問題を引き起こしていると知って、唖然としてしまった。長年にわたって生態系に合わせて生きてきたハチを効率主義の産業に巻き込んでいることが根本的な原因であるとの著者の指摘には十分に説得力がある。

風媒花のトウモロコシとオートムギ(エンバク)などを除いて、食用植物のほとんどが昆虫に花粉を運ばせる虫媒花。ミツバチの利用は古くから行われてきた。古代エジプトではナイル川沿いに咲く花を追ってミツバチを乗せた船を南北に移動させていた。イスラエルのレホブ遺跡では、BC900年の人口のハチの巣が発掘された(聖書では、イスラエルを密と乳の流れる土地と呼んだ)。ヨーロッパでも、ドナウ川、ラバ、人間の背中を使って花の季節を追いかけていた。ミツバチに花粉交配を頼っている作物は100種類近くになり、人間の食物の80%を占める。

セイヨウミツバチの祖先はアフリカが起源で、200万年前に木の洞や岩の割れ目で生活するようになったため、熱帯以外の地域でも住めるようになった。ミツバチは花蜜だけでなく花粉も集める。花蜜は採餌蜂のエネルギー源になるが、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルが含まれる花粉は蜂児に与えられる。採餌蜂の4分の1が花粉の採集を専門に行うが、花蜜を集める蜂との割合は状況によって変化する。

2006年秋から蜂群崩壊症候群(CCD)が起こり始めた。ダニ、ウイルス、ノゼマ病微胞子虫などが疑われたが、決定的な原因が見つからない。農薬のネオネコチノイドは、アセチルコリン受容体と結合して神経を麻痺させる。ミツバチの死因の10%は農薬によるものとの推定もある。ネオネコチノイド系農薬のイミダクロプリドを製造するバイエル社によると、ヒマワリの花密と花粉の残留濃度は1.5ppb未満、トウモロコシとキャノーラでは5ppb未満だが、亜致死濃度は6〜8ppbとの研究結果もある。しかし、イミダクロプリドの使用を禁止しているフランスのミツバチが他のヨーロッパの国より良い状態にはない。

研究者たちは、CCDに単一の原因があるという見方を捨てている。ミツバチが多くの種類のウイルスに侵されていることは、慢性ストレスによって免疫系が崩壊したことを示している。2月のアーモンド受粉期に備えて蜂の数を増やすために、養蜂家は冬の間に大量のコーンシロップを与える。しかし、花粉からのタンパク質の供給がないため、ミツバチの体からは善玉菌が消え、腐蛆病菌が蔓延する。今や、養蜂家はミツバチにプロテインジュースを与えるようになった。

中国四川省のナシ農園では、殺虫剤が大量に撒かれてから昆虫が見られなくなったため、体重の軽い女性や子供が受粉を行っている。バニラ蘭の花の蓋を開けることができるハリナシミツバチは森林伐採のために消滅したため、今や世界中のバニラ蘭の受粉は人間が行っている。

人間が目先の利益を拡大させるために気づかぬうちに損失をまねいてきた事例は数多い。効率化を進めることは余裕を放棄することであり、突如の災害や異常事態の際に対応できなくなる状況に自ら追い込むことになる。求められているのは多様性なのだ、という著者の主張にも大いに共感する。ハチは農業生産に大きな役割を果たしているが、この問題は文明論にもつながる大きなテーマだった。

ハチはなぜ大量死したのかハチはなぜ大量死したのか
ローワン・ジェイコブセン / 文藝春秋 (2009-01-27)
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