最も読み応えがあったのは、農水省の政策(規制)を解説した2章と3章。減反政策をまもっているかどうかを確認するために何万人もの職員が水田を見回っていることや、小麦やバターの国家貿易、ミニマムアクセス米の管理、豚肉の差額関税などによって、特別会計の財源にしているとか、食糧安全保障を行わない場合の不安をあおっているという。農業生産者や国民を食い物にしているだけでなく、洗脳までしていることになる。
これに対して、アメリカ農務省が生産者や輸出業者が世界市場にアクセスしやすくするための戦略を立てて実行している例を紹介している。日本の内向きで、親分的な農水省の仕事ぶりとの違いに愕然とした。食料自給政策を完全否定しているイギリスとの違いともあわせて、日本の農業がおかれている哀れな状況に暗澹たる思いさえ感じた。
この問題に対して取り組む著者の真摯な姿勢が伝わってくるし、遠慮なく率直な主張を表明する態度にも感慨を受けた。これまで、食料安全保障は必要だろうと思っていた、自らの無知を恥じたことを含め、いろいろな意味で刺激の多い内容だった。
・厚生労働省による実際の摂取量は1904カロリーを分母にすれば、カロリーベースの自給率は54%(2008年)
・野菜の重量換算の自給率は80%以上。
・生産額ベースの自給率は66%(2007年)。
・自給率の発表は生産額ベースの方が早く、カロリーベースの自給率は牛肉・オレンジ交渉時代の1983年より始まった。
・日本の輸入促進予算22億円より自給率向上キャンペーン費48億円の方が多い。EU全体の輸出助成金は4000億円。
・国の減反政策に応じて転作した農家には、10アール当たり3万5000円以上が支給される。その累計は7兆円。
・日本のエンゲル係数は23%。高関税に守られたコメと政府の価格統制された小麦の値段が高いことが大きな要因。
・減反政策に従って田植えをしていないことを確認するために何万人の職員が水田を見て回ってきた。
日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)
浅川 芳裕 / 講談社 (2010/02)
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