中世の宗教音楽から始まった西洋音楽は、協和音が重視された声楽と器楽曲のルネサンス、絶対王政時代の宮廷音楽とオペラのバロック、市民社会の勃興と啓蒙主義を背景にした古典主義音楽、自由市場で目立つことが求められたロマン派音楽、快適で洗練された音を愛した印象派と変遷し、第一次世界大戦とともに、シェーンベルクによる調性の解体やストラヴィンスキーによるリズム法則の破壊によって、音楽史は瓦解していった。戦後の音楽については、前衛音楽、巨匠の名演、ポピュラー音楽の3つの流れに分かれているとまとめている。
バロックの巨匠と考えられているバッハがむしろ例外であることや、未来に遺産を残すことを重視して交響曲などがつくられ、無言歌、標題音楽、絶対音楽への展開も見られたドイツに対して、目の前の需要を満たすグランドオペラやサロン音楽、キッチュが好まれたフランスやイタリアの違いがあったという説明もわかりやすい。
各時代の音楽の特徴などがコンパクトながら十分に理解できる。それでいて、歴史全体の流れがきちんとつながるように解説されているのは見事。読了後は大きな満足感に浸ることができた。
あとがきの通史を書くことに関するエピソードもおもしろい。

岡田 暁生 / 中央公論新社 (2005/10)