2017年08月12日

『「自分メディア」はこう作る!』ちきりん

ブログ運営の舞台裏と本人が選んだブログ記事で構成されているが、どちらも読み応えあった。

小学5年生の時に「ニ十歳の原点」を読んで、日記を書き始めた。著者にとっての日記は「今日はこんなことを考えた」という思考の記録で、高校時代には、その一部を友人に見せたりもしていた。Chikirinの日記は、ブログサービスを使って日記を書くつもりで2005年に始めた。2008年の半ばに、はてなブックマークが大量に付けられるようになり、アクセスが急増した。さらに、ツイッターで人気が加速した。ブログが人気化すると、ネットメディアの編集者などから転載や執筆依頼の連絡を受けるようになった。

「一生の間に、最低でも二つの異なる働き方を体験したい」と考え、2010年末に外資系企業を退職した。アジアの都市で日本語教師でもしながら暮らすことを考えていたが、退職直後に出版した「ゆるく考えよう」がヒットすると、雑誌や新聞、ラジオから取材や出演の依頼が殺到するようになったため、ブログ運営に集中することにした。ブログのPVは月間200万、収入はAmazonアソシエイトとGoogleアドセンスだけで年間500万円弱に達している。「ちきりんセレクト」では、著者の愛用商品を紹介している。

「ゆるく考えよう」の印税収入は500万円あまり(4万2000部、文庫1万6000部)、「自分のアタマで考えよう」は1500万円あまり(11万3000部)。その後の作品も700万〜800万円(5万5000〜6万6000部)に達している。本書の基になった「Chikirinの日記の育て方」は電子書籍として出版し、同程度の印税収入を獲得している。

「下から7割の人のための理科&算数教育」
日本の教育では、生産者(技術者)になるための教育には熱心だが、生活者のための科学教育には重きが置かれていない。富国強兵のための教育という思想が、根強く残っているからでしょう。

「思考と分析、その微妙かつ決定的な違い」
分析の結果は情報しか含まれておらず、誰がやっても同じ。思考の結果は、分析結果以外のことも考え、自分の基準に照らして判断するもので、価値判断が含まれる。

運営方針や目的を明確に定めていること、わかりやすい文章にまとめていることが成功した要因だったのではないかと思う。日記の書き方についても、改めて考えさせられた。社会の動きや自分が入手した情報に絡めて、自分がどう考えたかを記録すれば、自分の関心事項や問題意識を確認することができ、活動や成果を積み重ねることができるだろう。

「自分メディア」はこう作る! 大人気ブログの超戦略的運営記「自分メディア」はこう作る! 大人気ブログの超戦略的運営記
ちきりん / 文藝春秋 (2014-11-22)
2017年08月08日

『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』巽好幸 幻冬舎新書

マグマや火山の形成、噴火の要因、富士山や巨大カルデラ噴火について、わかりやすくまとめられている。

マグマは、海洋プレートが沈み込んだ100km以上の深さでプレートから絞り出された水とマントルが反応して生まれる。玄武岩質マグマは、比重が重いマントルの中を上昇した後、ほぼ同じ比重の地殻の底で止まる。そこで冷えて結晶化したものが沈み、液体部分に軽い二酸化ケイ素が増えた安山岩質マグマが残ると、地殻より比重が軽くなって上昇し、地殻内にマグマだまりをつくるが、地表に到達するまでに大部分は結晶化する。これによって大陸地殻が成長することになる。一方、伊豆・小笠原弧の地殻は重くて薄いため、玄武岩質マグマが上昇しやすく、大量のマグマが海底に達して大きな海底火山を形成する。

マグマ溜まりが地震によって揺さぶられると、発泡現象によりマグマに溶け込んでいる水が気体となって圧力が高まり、岩盤に割れ目ができると体積が増えてさらに発泡が起きることを繰り返して噴火を起こす。巨大地震が起きると歪みが解放されて、地盤に働く力が圧縮から引っ張りへと変化するため、マグマ溜まりの圧力が下がることも噴火の要因として考えられる。噴火マグニチュードは、噴出物の総重量(kg)の常用対数から7を引いて求める。

数十万年前、伊豆半島周辺では、箱根火山、愛鷹火山、先小御岳火山、天城火山などの火山活動が盛んだった。箱根火山は6万6000年前にM6.1の大噴火を起こし、火砕流は横浜まで到達し、都内に20cmの東京軽石層を形成した。富士山は未熟な地殻の上に作られたため、玄武岩質でできており、密度が重く、粘性が低いためにストロンボリ式噴火を繰り返し、円錐形の山体ができあがった。

富士山が噴火すれば、降灰が50cmに及ぶ富士吉田や御殿場では家屋に被害をもたらし、10?になる大月以南、三島以北、神奈川県の大部分では鉄道や道路が通行不能になる。2cmの降灰が予測される中伊豆、東京、千葉の大部分では、電機や水道の供給が止まり、農作物は収穫不能になり、呼吸器系疾患をもたらす。

巨大カルデラ噴火は、プリニー式噴火によって大量のマグマが噴出した後に、カルデラが陥没していくつもの割れ目が生じてクライマックス噴火を起こすもの。8万7000年前の阿蘇4噴火(M8.4)では、自らの熱によって火山灰同士がくっついた溶結凝灰岩によって宮崎県の高千穂峡や大分県の滞迫峡ができ、北海道でも15cmの火山灰が積もった。2万9000年前に起きた姶良カルデラ噴火(M8.3)は、火砕流が九州南部を覆い尽くし、鹿児島地方でシラスと呼ばれる200m近くの火山灰層をつくり、偏西風によって運ばれた火山灰は、10?以上の丹沢軽石の火山灰層(AT)や鳥取県大山周辺の20cmのキナコと呼ばれる火山灰層を形成した。7300年前の鬼界アカホヤ噴火(M8.1)では、九州南部に30cm以上の火山灰が降り積もり、南九州の縄文人は絶滅した可能性が高い。鬼界アカホヤ噴火のエネルギーは、大型台風の10倍、富士山宝永噴火やM9地震の800倍にもなる。

著者は、災害対策の必要度の指標として、その死亡者数と発生確率を掛け合わせた「危険値」を用いている。
南海トラフ地震 推定4%×32万人=12800人/年
巨大カルデラ噴火 推定0.003%×1億2000万人=3600人/年
首都直下地震(M7以上) 推定4%×2万3000人=920人/年
富士山山体崩壊 1/5000年×40万人=200人/年
豪雨・土砂災害 実数100人/年
阪神淡路大震災 前日の確率0.02〜8%×6400人=1〜500人/年
富士山噴火 推定1/1000年×1万4000人=14人/年

富士山大噴火と阿蘇山大爆発富士山大噴火と阿蘇山大爆発
巽 好幸 / 幻冬舎 (2016-05-28)
タグ:地学
2017年07月03日

『世界像革命』エマニュエル・トッド

社会ごとの家族構造と政治制度の関連を分析したトッドの講演、討論会、対談を集めたもの。2001年発行なのでやや古いが、石崎氏の解説が要領よくまとめられていて、トッドの学説を手軽に学ぶにはいい。

伝統的な農民社会が近代化する際に関わるモデルを提供するもの。
システム間の統計的な関係を示唆するもので、個人レベルでの拘束力を意味しない。
近代化による工業社会への移行に伴って、長子相続を維持する必然性が薄れるなど、家族制度も変わっていく。

・直系家族
子どものうちの跡取りが親の家に残り、すべての遺産を相続する。
親子関係は権威主義的で、兄弟関係は不平等。
他の子供は成人すると家を出て、僧侶、兵士、商人などの生活の場を見つける。世界的に傭兵を産出する傾向がある。
家の継続性を重視し、子どもたちを親の監視・保護下におくため、子どもの教育に熱心。
プロテスタンティズムは、絶対的な神の意志と霊の救済の不平等を内容とするもので、直系家族地域に広がった。
民族共同体を理想社会とするイデオロギーからは自民族中心主義(ナチズム)が、労働者階級を社会の主体とするイデオロギーからは社会民主主義が現れる。
経済活動の連続性、テクノロジー、市場の獲得、労働力の養成に関心を寄せるラインラント型資本主義を発展させた。
ドイツ語圏、チェコ、スウェーデンとノルウェーの大部分、アイルランド、スコットランド、ウェールズ、フランス南部(オック語地方)とイベリア半島北部、日本、朝鮮半島、チベット、ルワンダのツチ人とフツ人、カナダのケベック。

・不完全直系家族
中央ヨーロッパの直系家族と東ヨーロッパの共同体家族の境界地帯に存在する混合型。「新ヨーロッパ大全」で追加された。
ベルギー、ライン川流域、ヴェネト地方(ヴェネチア等)
ハンガリーは、半世紀の間に共産主義革命と反共産主義革命を経験した。

・平等主義核家族
子どもが成人して結婚すると家を出て独立世帯を構える。遺産は子供たちの間で平等・均等に分けられる。
親子関係は自由主義的で、兄弟関係は平等。
ラテン世界に典型的で、ローマ帝国の遺産と考えることができる。
16世紀の宗教改革が起きた際、カトリックはトリエント宗教会議において、救済の平等と人間の自由意思の観念に基づいて再編成された。
フランス革命の主導理念となった。普遍的人間の観念を生み出し、肌の色が異なる人間も受け入れるが、尺度に合わない者を非人間化する面をあわせ持つ。
民族共同体を理想社会とするイデオロギーからは自由軍国主義(ボナパルティスム、ブーランジュ主義、ド・ゴール主義)が、労働者階級を社会の主体とするイデオロギーからは無政府社会主義が現れる。
北フランス、イベリア半島の大部分、イタリア北西部と南部、ポーランド、ルーマニア、ギリシャ、エチオピア、ラテンアメリカ。

・絶対核家族
子どもが成人して結婚すると家を出て独立世帯を構える。遺産相続は遺言によって行われ、平等はあまり顧慮されない。
親子関係は自由主義的で、兄弟関係は不平等。
イングランドでは、古くから子どもを他家に奉公に出す制度があり、現在でも年少の頃からアルバイトをよく行う。子供の早期の独立を促すことが、産業革命が進展した要因と考えられる。
資本や労働力の移動性、個人主義、短期的な利益への執着という特徴を持った、アングロ・サクソン型資本主義を発展させた。
平等にはあまり関心を払わないため、イギリスで普通選挙が実現したのは、フランスより70年、ドイツより47年遅れた。アメリカにおいては人種差別が根強い。
民族共同体を理想社会とするイデオロギーからは自由孤立主義が、労働者階級を社会の主体とするイデオロギーからは労働党社会主義が現れる。
イングランド、オランダ、デンマーク、ノルウェー南部、フランスのブルターニュ、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ。

・アノミー的家族
子どもが結婚しても、次の子供が結婚するまで両親と一時的に同居する。最後に結婚する子どもが両親の扶養責任を負うが、子どもの自律性を重んじ、権威的ではない。外婚制核家族の変種と考えられる。
個人主義と共同体主義の間を揺れ動く。
タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、マレーシア、インドネシア、マダガスカル、アメリカのインディオ。

・外婚制共同体家族
息子は結婚しても親の家に住み続ける。遺産は兄弟間で平等・均等に分けられる。
親子関係は権威主義的で、兄弟関係は平等。
かつての共産圏の地理的分布と一致する。近代化によって家族が解体すると、同じように個人を統合してくれる構築物が求められ、中央集権的な制度である共産主義が引き継いだ。
民族共同体を理想社会とするイデオロギーからはファシズムが、労働者階級を社会の主体とするイデオロギーからは共産主義が現れる。
イタリア中部のトスカーナ地方、フランス中部、フィンランド、ブルガリア、旧ユーゴスラビア、ロシア、中国、ベトナム、北インド。
トスカーナは、イタリア共産党の金城湯池だった。共産圏崩壊後、直系家族のチェコや平等主義核家族のポーランドは、資本主義市場経済への適応が順調に進んでいる。

・内婚制共同体家族
同居する兄弟の子供同士(平行いとこ)が結婚する(25〜50%)。
普遍主義的人間観を産み、多民族を寛大に同化するため大帝国を築き上げる傾向がある。
アラブ・イスラム圏。
イスラムが、イベリア半島北部、アルメニア、エチオピアのキリスト教国を打ち破ることができなかったのは、家族制度の違いにあった。

・非対称共同体家族
異性の兄弟姉妹の子供同士(交叉いとこ)の結婚が優先され、母系的内婚(母の兄弟の娘との結婚)が優先される。
夫と妻の同居はまれで、兄弟と姉妹も必ずしも同居しない。
父系の内婚が禁じられる家族構造が、人間の絶対的な差異の観念を産み、カースト制の支柱になっている(北部ではカースト制に対する執着は少ない)。女性の地位が高く、それに連動して識字率が高い。
インド南部のドラヴィダ系地域。

家族構造の歴史的発展を言語学で用いられる伝播モデルで説明しているが、単純な援用のような印象を持つ。家族は生活(生計)の単位であると考えれば、農業、遊牧、商業といった社会の主産業に適した家族形態に発展したと考える方が無理がないように思う。社会の主たる産業は地域の環境の影響を受けるから、梅棹忠夫の「文明の生態史観」のような環境や産業をベースにしたモデルを用いるとどうなるかは興味がある。

世界像革命 〔家族人類学の挑戦〕世界像革命 〔家族人類学の挑戦〕
エマニュエル・トッド / 藤原書店 (2001-09-30)
タグ:文化人類学